西島秀俊と内野聖陽の同性カップルの日常を料理を軸に描く『きのう何食べた?』(テレビ東京系)。2人の出会いのシーンが盛り込まれた第4話を振り返ります。
■原作にないケンジの気遣い
シロさんの父親(志賀廣太郎)の食道がん手術当日。
前日の夜中に、焦がした鍋を磨いてしまうほどシロさんこと筧史郎(西島秀俊)は落ち着かない様子。
同居するシロさんのパートナー、ケンジこと矢吹賢二(内野聖陽)はそんなシロさんにミニタオルを手渡す。
一日病院で待つことになるであろうシロさんの母親への贈り物(病院だと何度も手を洗うから)だが、今のシロさんには無い角度の優しさだ。
ガンが発覚した際、シロさん達に対して何もできない自分を気にしていたケンジだったが、まだシロさんの両親に対し完全に受け入れられていない立場からの絶妙な距離感の気遣いにケンジの真摯な思いを感じる。
■梶芽衣子の説得力
手術が始まると一定の間隔で絶叫しながら慌てふためく母親(梶芽衣子)を「まるで間欠泉」だと例える冷静なシロさん。
自分より慌てる人がいることにより逆に落ち着いてしまうのだろうか。
ちなみに原作では冒頭の鍋を磨くシーンはなくシロさんは終始淡々としてるように見える。
一方「今まですがった神様、どなたでも構いません、どうかお父さんの命を…」と父親の無事をやや乱暴に神に祈る母親。
これはその昔息子のシロさんが同性愛者だと知った際にショックで信仰宗教にハマったという
母親のエピソードを基にした台詞(原作通り)なのだろうが、悲しさの中に見える滑稽なおかしさを梶芽衣子が見事に演じていた。
若々しくみえる梶だが今や72歳。女囚サソリや野良猫ロックシリーズの頃とは似ても似つかぬ役柄だが、根底に垣間見える妙な落ち着きがコメディへの説得力を強めてくれる。
■シロさんとケンジの出会い
手術も無事終わった後日、冷静さを取り戻した母親が、いるはずの人がいないいつもの部屋でで言う。
「毎日一緒に暮らしてる人って特別なのね……」
この言葉を聞いてシロさんはケンジを思い出していたようだった。
ドラマ後半ではそのケンジと出会った際のエピソードが描かれた。
3年前の夏の「二丁目」のパーティ。当時の彼氏に連れられてきたシロさんがまず自覚したのは自分がゲイの中では持てないタイプの風貌だということ。
それでもその彼と別れたシロさんはケンジと付き合わないまでもしょっちゅう遊ぶ仲に。
やがて、上の階の水漏れで住むところがなくなり困っているケンジをシロさんが自分の家に誘って共同生活が始まったのだが、この時、ケンジの勤める美容室で顔に白い布を乗せられたまま、「うち、くる……?」と恥ずかしそうに誘うシロさんのシドロモドロ感が可愛すぎた。
そのすぐ後のクリスマスに初めてシロさんの手料理を食べたケンジは、「おせち料理みたいにいつも同じメニューの方が特別な日って感じがするじゃない?」という理由でクリスマスの度に毎年同じメニューを注文している。
ラザニア、鶏肉の香草パン粉焼き、明太子ディップとフランスパン。
この先も2人が別れない限りクリスマスには同じメニューを食べるのだろう。
■ドラマ成功を支える2つのテーマ曲
シロさんは元気を取り戻した母親に、プレゼントしたあのミニタオルがパートナーであるケンジからの贈り物だということを明かす。
「よく気の利がつく方なのね」
と気に入った様子の母親。
父親が病床にありつつも少しづつ親子の関係が回復していってるような前向きな空気でエンディング。
いつもそうだが、エンディングテーマのフレンズの曲(「iをyou」)が週末に向けての気持ちを高めてくれるようで、常に前向きな気分でドラマを見終えることができる。「俺たちひょうきん族」のエンディング「downtown」(epo)に並ぶハマり具合と言ったら言い過ぎか。
オープニングの「帰り道」(O.A.U)も、オープニングらしからぬノスタルジックな曲調が自撮り動画映像でいちゃつくケンジとシロさんの映像も相まって好評だが、このドラマの成功の一因はテーマ曲の良さも大きい。
むしろBGMは今時のドラマにしては控えめな方なのだが、それが安っぽい演出にならず功を奏しており、その分ここぞというタイミングで被せられる音楽が活きている。
特に前述したエンディング曲のイントロが鳴り出すタイミングは毎回絶妙で、心地がいい。
7月、10月、12月と矢継ぎ早に季節をまたいで来たドラマは次回お正月。
普段キャピキャピしてるケンジがシロさんをピシャリとたしなめるシーンが見所です。
(文=柿田太郎)