【連載29】テレビで放送されてこそ芸能人! ケガをも隠す芸人魂とは?

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  そんな優しさとは裏腹に、Uはいきなりソフトボールを脚立の上から思いっきり地面に叩きつけた。
  “ゴーン!”という大きな音に、思わずしゃがみ込んだTが悲鳴を上げて、スタジオは大爆笑だ。
  頭には直撃してないものの、その衝撃音に驚いたTが「何してんですかー!」とややキレ気味に抗議すると、再び爆笑が起こった。
  とりあえず、Uのフォローは功を奏したのだ。

  続いて、Uが手にしたのは、新幹線のオモチャだった。
  「ちょっとインパクトに欠けるのでは?」と思っていると、Uは車両を縦にして、そう新幹線の正面部分を下に向けて、手を離したのだ。
  笑いの“のぞみ”を託して、出発進行と言ったところか?

  すると、コツンという乾いた音とともに「イタッ!」というTの声。
  一瞬、笑いが起こったものの、スタジオに動揺が走る。
  「おい、大丈夫か? 血が出ているぞ!」との指摘を受けたTは、必死になって冒頭の言葉を返したのだった。

  Tは出血したことで自分の出演している部分がカットされ、オンエアされないことを恐れていた。
  初のテレビ出演、次に繋がる結果、そして何よりも先輩のUの粋な計らいが無駄になってしまう。

  収録の途中で、病院へと向かったTと、それに付き添った番組プロデューサーが、遅れて打ち上げ会場の居酒屋にやって来た。
 
  Tは席に着くなり、「いや～、大変でしたよ。医者に『どうしたんですか?』って聞かれたので、『頭に新幹線が落ちました』って返したら、『精神科に行きなさい』って言われちゃいましたよ～」と話して場をわかす。
  それまで、仏頂面で酒を飲んでいたUも、その一言で笑顔を取り戻していた。

        本日の日直：現役放送作家(業界歴13年)

・「チーム・スパイス」とは… メディアで活躍している、ディレクター、放送作家、アシスタントプロデューサー、スタイリスト、ヘアメイクなど数名で構成されている、謎の酒好きテレビ業界人集団。西麻布、三軒茶屋界隈などで、夜な夜な業界話に花を咲かせている。