【連載32】狙った瞬間は逃さない! テレビカメラマンにとって収録現場は戦場なのである!!
編集部
本番中にもかかわらず、大きな声でフロアD(ディレクター)を叱りつけたのは、チーフカメラマンのH。
Hは陰で“鬼軍曹”とも言われているベテランカメラマンで、同業に厳しいのはもちろん、ADやフロアDなどの段取りや動きが悪いと、烈火のごとく怒る。 事情を知っている出演者やスタッフは、「またはじまったか…」くらいの感覚だが、初めて番組に出演するゲストは収録中に何事が起きたのかと驚き、目がテンになっている。
怒鳴られたフロアDは、顔面蒼白で立ち尽くし、イヤな空気がスタジオを包んでいく。 テレビ番組は、さまざまな職人たちによって制作されている。
セットのデザインや設計、そして小道具を準備する“美術”、実際にセットを建て込む“大道具”、演出の意図に合わせて光を作り出す“照明”などなど、多くのプロの手によって成り立っている。 職人の世界はどの分野でも厳しいが、テレビ界においてもそれは変わらない。
技術は、一夜にして簡単に身に付くハズなどなく、ひたすら現場について先輩たちから盗むなり、アドバイスに耳を傾けるなりしなければならない。
修業が大切なのだ。 テレビカメラマンも同様で、最初からカメラを持つことはない。
まずは、誰もが“カメアシ”からスタートする。
カメアシとは、「カメラアシスタント」の略で、要するに先輩たちがスムーズに撮影できるように、アシストするスタッフのことだ。 例えば、スタジオ収録の場合、カメラの動きに合わせて、ケーブルが邪魔にならないようにさばかなければならない。
ちなみに、Hはこのケーブルさばきにとくに厳しく、カメアシがもたついていると、「遅い!」とばかりに蹴りを繰り出す。 また、屋外のロケの場合は、カメラのファインダーを覗いている先輩が転倒しないように体を安全な場所へ誘導するなど、サポート役に徹する。
身分こそ低いが、撮影時は重要なポジションであることに変わりはない。 さて、鬼軍曹Hが怒ったのにはワケがある。
収録直前に演出を担当するディレクターが台本をいくつか修正し、リハーサルと違う段取りになったのだが、それをフロアDがカメラマンたちに伝えていなかったのだ。