酒井法子主演『空蝉の森』・清水崇監督『樹海村』、閉鎖的な社会からの失踪をテーマにした映画2選!

長野辰次
酒井法子主演『空蝉の森』・清水崇監督『樹海村』、閉鎖的な社会からの失踪をテーマにした映画2選!の画像1(c)「空蝉の森」製作委員会 NBI

 2014年に撮影されていた酒井法子主演のサスペンス映画『空蝉の森』が、7年の歳月を経て、2月5日(金)より劇場公開される。壇蜜主演の官能作『私の奴隷になりなさい』(12)を大ヒットさせた亀井亨監督のオリジナル脚本作(相原かさねとの共作)だが、製作会社が倒産したために、お蔵入り状態になっていた作品だ。

 酒井法子が演じるのは、3カ月にわたって失踪していた人妻・結子。警察に保護され、ようやく夫・昭彦(斎藤歩)のいる実家へと戻ってきた。だが、警察が帰ったあと、昭彦の態度は豹変する。「お前は誰だ? お前は結子じゃない」と言い出したのだ。

 結子は失踪中の記憶がまるでないと釈明するも、昭彦は認めようとしない。失踪事件を担当する地元警察署の假谷警部(柄本明)、昭彦の掛かりつけの精神カウンセラーの山井(西岡徳馬)らが真偽を確かめようとするが、どうにも白黒がつかない。昭彦には若い愛人(長澤奈央)がおり、結子の祖父の遺産を狙っているのではという疑いも浮かび上がる。はたして、嘘をついているのは結子なのか、それとも昭彦なのか?

酒井法子主演『空蝉の森』・清水崇監督『樹海村』、閉鎖的な社会からの失踪をテーマにした映画2選!の画像2(c)「空蝉の森」製作委員会 NBI

 酒井法子には薄幸系ヒロインの役がよく似合う。1995年に放映された『星の金貨』(日本テレビ系)では、親に捨てられた哀しい過去を持つ見習い看護師を演じて人気を博した。昭和最後のアイドル「のりピー」としてブレイクした酒井法子だが、アイドルとは空虚な実態のない存在でもある。ファンの声援を受け、笑顔で応えることで初めてその存在が成立する。

 かつて人気アイドルだった酒井法子が2009年に起こした騒ぎに世間は驚いた。謝罪会見で彼女が涙を流す姿を記憶している人も少なくないだろう。周囲に勧められて介護士になるための勉強を始めたものの、入学した大学は消滅。再び芸能界に戻ってくることになった。

 本作で酒井法子が演じた結子も、とても空虚な存在だ。失踪中の記憶を持たない結子は、懸命に結子らしく振る舞うことで、夫の昭彦に認められようとする。昭彦がそっぽを向いていても、食事の準備をする。この家以外には、結子の行き場所はどこにもない。結子自身には実態がなく、昭彦の妻である結子を健気に演じることで結子になり切ろうとする。

 タイトルに謳われている「空蝉(うつせみ)」とはセミの抜け殻のことであり、またこの世を生きる人間のことも指している。自分の居場所を求める結子は、芸能界への復帰を図っていた当時の酒井法子自身と重なる部分がある。また、自身の空虚さに悩んでいるという点では、不安定な現代社会でサバイバルすることを余儀なくされている我々にもよく似ているように感じる。

酒井法子主演『空蝉の森』・清水崇監督『樹海村』、閉鎖的な社会からの失踪をテーマにした映画2選!の画像3(c)2021「樹海村」製作委員会

 もうひとつ、失踪事件をモチーフにした映画が、同じく2月5日(金)より公開される。清水崇監督の新作ホラー映画『樹海村』だ。興収14 億円のヒット作となった『犬鳴村』(20)に続く、村シリーズの第2弾。自殺の名所として有名な富士山麓一帯に広がる樹海を舞台に、主人公一家の封印されていた物語が繰り広げられる。

 鳴(山口まゆ)と響(山田杏奈)の姉妹は、幼い頃に母親(安達祐実)と死別しており、そのことがふたりのトラウマとなっていた。姉妹の関係は、どこかギクシャクしている。ある日、姉妹の共通の親友・美優(工藤遥)夫婦の引っ越しを手伝うが、新居の軒下に不気味な木箱が置いてあることに響が気づく。響は霊感の持ち主だった。その木箱には強い呪いが込められており、木箱に関わった人たちは次々と不幸に見舞われてしまう。

 突然消息を絶った美優を探すため、鳴たちは樹海での捜索を始める。生きて戻ることはできないと言われる樹海の奥深くに迷い込んでしまう鳴。そこには都市伝説として囁かれていた樹海村があり、死んだと思っていた母親に鳴は再会することになる。幼い子どもを残して身勝手に姿を消したと思っていた母親だったが、実はある事情があったことを鳴は知ることになる。ホラー映画としての恐怖演出以上に、家族の関係に悩んでいた主人公姉妹の意識が恐怖体験をきっかけに変わっていくドラマ性が興味深い。

 和を乱すような言動をした者やミスを犯した者は、SNS社会では厳しいバッシングにさらされてしまう。息苦しさを増していく現代社会から、逃げ出したいと考えたことのある人もいるのではないだろうか。『空蝉の森』も『樹海村』も、現実世界での自分の居場所を失ってしまった人たちの哀しい物語だ。寛容性を失った人間社会は、恐怖映画よりもずっと恐ろしい。

(文=長野辰次)

『空蝉の森』
監督/亀井亨 脚本/亀井亨、相原かさね
出演/酒井法子、斎藤歩、金山一彦、池田努、長澤奈央、角替和枝、西岡徳馬、柄本明
配給/NBI 2月5日(金)よりアップリンク 渋谷ほか全国順次ロードショー
(c)「空蝉の森」製作委員会 NBI
https://utsuseminomori.com

『樹海村』
監督/清水崇 脚本/保坂大輔、清水崇
出演/山田杏奈、山口まゆ、神尾楓珠、倉悠貴、工藤遥、大谷凛香、山下リオ、塚地武雅、黒沢あすか、高橋和也、安達祐実、原日出子、國村隼
配給/東映 2月5日(金)より全国公開
(c)2021「樹海村」製作委員会
https://jukaimura-movie.jp

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