『カルテット』の脚本家と監督が描く“理想の恋愛”! 菅田将暉&有村架純主演『花束みたいな恋をした』

長野辰次
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(c)2021「花束みたいな恋をした」製作委員会

 好きな作家が同じ、好きな映画や音楽も同じ。趣味や価値観がぴたりと一致する異性との交際は、すぐに打ち解け、いつまでも話題が尽きない。そんな“理想のカップル”に菅田将暉と有村架純が扮したのが、現在公開中の映画『花束みたいな恋をした』だ。若手演技派のふたりが、5年間にわたる主人公カップルの恋の行方をリアリティーたっぷりに演じてみせている。

 菅田と有村をイメージしてオリジナル脚本を執筆したのは、TVドラマ界で長年活躍を続けている売れっ子脚本家の坂元裕二。大人の恋愛模様をサスペンスタッチで描いた『カルテット』(TBS系)が高く評価された土井裕泰監督との再タッグ作となっている。『カルテット』は30代の男女4人による共同生活が話題となったが、本作では恋愛に一途な20代男女の同棲生活が赤裸々に描かれている。

 主人公は大学生の麦(菅田将暉)と絹(有村架純)。ふたりがふとしたことで出逢い、最高に楽しい恋愛体験を送る物語だ。そのふたりの出逢いは、ちょっとユニーク。劇場アニメ『うる星やつら2  ビューティフル・ドリーマー』(1984年)や『イノセンス』(2004年)などで知られる押井守監督が、なんとふたりの恋のキューピッドとなる。

 麦と絹は、その夜が初対面だった。京王線明大前駅で終電に乗りそびれてしまったことから駅近くの深夜営業のカフェで、たまたま一緒に過ごすことになる麦と絹。そのカフェの一席にニット帽を被った押井監督がいることに、ふたりは気づく。世界的に有名なアニメ界の巨匠監督がいるのに、他の客は誰も分からずにいる。

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「あっちの席に神がいます」
「犬が好きな人ですよ。あと、立ち食い蕎麦」
「好き嫌いは別にして、押井守を認知していることは広く一般常識であるべきです」

 初対面ながら、押井監督の話題で盛り上がる麦と絹だった。押井監督自身はまったく自覚していないが、押井監督がきっかけでふたりは会話が弾み、趣味や考え方がお互いよく似ていることを知る。好きな小説家は今村夏子、好きな漫画は『ゴールデンカムイ』(集英社)。お気に入りの映画館は、早稲田松竹に下高井戸シネマ。カラオケボックスで一緒にきのこ帝国の「クロノスタシス」を歌う。おまけにふたりが履いているのは、どちらもコンバースの白だった。

 麦の部屋を訪ねた絹は、本棚を見て思わず笑う。

「ほぼうちの本棚じゃん」

 友達や恋人の部屋の本棚やCDラックのチェックは、その人の頭の中を覗き込む行為によく似ている。

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 意気投合した麦と絹の交際がスタートし、やがて調布駅から徒歩30分のマンションで同棲生活を送ることに。だが、ふたりの恋愛が盛り上がれば盛り上がるほど、現実世界との落差は大きなものとなる。大学卒業を控えた絹の就職活動はうまく進まず、圧迫面接に絹は落ち込んでしまう。絹を励ましていた麦はプロのイラストレイターを目指すものの、収入は増えず焦りを覚える。

 絹との幸せな生活をずっと続けたい。そう願う麦は、イラストレイターの道を諦め、サラリーマンとして一般企業に就職する。新入社員となった麦の仕事はとても忙しく、以前のように小説や漫画をゆっくりと楽しむ余裕はない。フリーターとして働く絹との間にもズレが生じていく。絹のことを大切に思っているがゆえに麦はガムシャラに働くが、麦の価値観は大きく変容してしまう。趣味や価値観が笑ってしまうほど一緒だったふたりに、破局の危機が訪れる。

 麦と絹が同じ価値観を共有することを示すアイテムとして、芥川賞作家・今村夏子の短編小説『ピクニック』がある。『ピクニック』は地方都市のあるレストランが舞台となっており、レストランで働く女の子たちが年上の心優しい同僚・七瀬さんを善意を装った悪意で追い詰めてしまうブラックな物語だ。麦と絹の場合は純粋な善意から、お互いを傷つけ合うことになる。相手の善意が分かっているから、いっそう苦しむ。一方的な善意は、悪意と同じくらい恐ろしい凶器となる。無自覚な分だけ、より厄介だ。

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 今村夏子の『ピクニック』が収録された短編集『こちらあみ子』(筑摩書房)が出版されたのは2011年。漫画『ゴールデンカムイ』が「週刊ヤングジャンプ」で連載スタートしたのは2014年。他にも2016年のSMAP解散、渋谷パルコの閉館などの話題が語られる。麦と絹が交際したのは2015年からの5年間。2010年代のカルチャーシーンを、20代の男女の視点から振り返ったものとなっている。

 学生時代を終え、社会人となる20代は、少年少女期と同じくらい価値観が大きく変動する年頃だ。社会に揉まれ、否応なく価値観は揺さぶられることになる。そんな人生の大切な分岐点を一緒に過ごすことができた麦と絹は、ある意味では特別な時間を分かち合った恋人同士だと言えるだろう。

 麦と絹は価値観がぴたりと一致することを重視したが、これに関しては異論を唱える人もいるかもしれない。趣味や考え方が違うから、付き合うのが面白いと感じる人もいるに違いない。麦と絹は一緒に暮らし始めた最初の年末、近くの神社で子猫を拾って帰り、「バロン」と名付けてかわいがる。当然だが、猫には人間の言葉は通じず、人間の都合も理解されることはない。それでも猫は猫であること自体が、堪らなく愛おしい。一匹の猫をずっとかわいがるように1人の異性もずっと愛し続けることができれば、どんなに幸せなことだろうか。付き合い始めた頃のように真っ直ぐな愛情が保てなくなったことに悩む麦と絹を観て、ふとそんなことを思った。

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(文=長野辰次)

『花束みたいな恋をした』
脚本/坂元裕二 監督/土井裕泰
出演/菅田将暉、有村架純、清原果耶、細田佳央太、韓英恵、中崎敏、小久保寿人、瀧内公美、森優作、古川琴音、篠原悠伸、八木アリサ、押井守、Awesome City Club、PORIN、佐藤寛太、岡部たかし、オダギリジョー、戸田恵子、岩村了、小林薫
配給/東京テアトル、リトルモア 1月29日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中
(c)2021「花束みたいな恋をした」製作委員会
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