(c)2020「海辺の映画館 キネマの玉手箱」製作委員会/PSC
映画館で上映される戦争映画特集で描かれるのは、幕末の戊辰戦争、日中戦争、そして太平洋戦争末期となる沖縄戦。歴史の教科書に載っていた過去の出来事がその時代を生きていた人たちの現実のドラマとして再現され、時空を旅する毬男たちは多くの死を目撃することになる。
さらに後半のメインエピソードとなるのは、原爆投下直前の広島にやってきた移動劇団「桜隊」をめぐる物語だ。1945年8月6日午前8時15分に原爆が投下されることを知っている3人は、「桜隊」の人々だけでも救おうとするが、過去を変えることはどうしてもできない。
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『時をかける少女』のヒロイン・芳山和子が時空を軽やかにタイムリープしてみせたように、大林監督もフィクションとリアルの世界を自在に飛び回ってみせる。余命宣告されていた大林監督には、もはや怖いものは何もなかったに違いない。反戦をテーマにしながら反戦映画の枠に縛られずに自由に撮った『この空の花 長岡花火物語』(2012年)、『野のなななのか』(2014年)、『花筐』以上に、より奔放に大林ワールドが広がっていく。
コロナウイルスの影響によって公開が延期となった『海辺の映画館』は、当初は4月10日の封切りが決まっていた。奇しくも大林監督が亡くなったのも4月10日だった。映画を完成させたい、みんなの驚く顔が見たい。そんな映画愛が、大林監督を生かし続けた。
過去を変えることはできないが、未来はこれから君たちの手で変えることができる。映画作家・大林監督のメッセージが、まっすぐに客席に届く作品となっている。
(文=長野辰次)
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『海辺の映画館 キネマの玉手箱』
監督・脚本・編集/大林宣彦 脚本/内藤忠司、小中和哉 撮影監督・編集・合成/三本木久城
出演/厚木拓郎、細山田隆人、細田善彦、吉田玲、成海璃子、山崎紘菜、常盤貴子
配給/アスミック・エース PG12 7月31日(金)より全国公開
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