【連載89】盗聴器発見番組のロケでたどり着いた意外な結末とは?

編集部
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  テレビは時に人間の“醜悪”を浮き彫りにする。
  その醜悪を覗くために、視聴者は群がってくる。

  ここ数年の過熱な不倫報道に対する、世間の反応を見れば、それは言わずもがなだろう。

  “盗聴”をテーマにした番組は、とくに人間の深淵が垣間見える。 街中を車で流して電波を拾い、盗聴されている家を特定し、その住人に許可をもらって、盗聴器を除去するという単純な内容ではあるが、その奥も闇も深い。

  現場の臨場感と、被害者と加害者の人間関係、そして見ている人間がもしかしたら自分もターゲットにされているかもしれないという不安が、視聴者の興味をかき立て、人の道を外れた愚行に対して、見る者は誰もが一定の嫌悪感を示すものの、心の奥底では「チャンスがあるなら自分も聞いてみたい」という欲望にかられる。

  テレビ画面の向こう側もこちら側も、人間の醜悪がうごめいているのだ。

  以前、某探偵事務所の協力のもと、ロケを行ったときに、ある一般家庭に盗聴器が仕掛けられていることが分かった。

  場所は郊外の一軒家で、両親と娘という3人の家族が暮らしていた。
  タレントを引き連れた我々テレビクルーは、家族に許可をもらい、家の中へと入る。

  こういう場合は、専門家やプロデューサーが前面に出るとかえって怪しまれてしまうことあるので、世間にある程度名の知られたタレントに交渉役を務めてもらう。
  まったく知らない“顔”よりも、どこかで見たことがある“顔”というのは、人に安心感を与える。

  今回もその作戦により、難なく家人の許可を得た。

  盗聴器の発見自体は難しいものではない。
  探偵事務所のスタッフがトランシーバーのような機械を振りかざして、音が反響する場所を特定していく。 本当に仕掛けられているのかどうか半信半疑の家人たちを余所に、作業は淡々と進む。

  タンスの裏側や隙間といった、普段目に触れる機会が少ない場所にも、専門家は目を配っていく。
  1階は調べ尽くし、2階に上がり、娘の部屋に入った時だった。
  機械のハウリング音がより高くなった瞬間、専門家は獲物を見つけたとばかりに手元の機械をタレントに渡し、机の上に置いてある電卓を指でさした。
  そして、人指し指を縦にし口に当て、周囲が静かになったところで、電卓をコンコンと手で叩いた。

  すると、タレントが手にしている機械からもコンコンと音がした。
  そう、単なる電卓が、盗聴器そのものだったのだ。 ものの10分で目的のブツは発見されたのだが、その場にいた母親と娘は、犯人に心当たりはないと言っていた。
  ただ、部屋の住人である高校生の娘の顔が異様なほど強張っていたのが印象的だった。

  後日家族に連絡をしたところ、あの発見された電卓型の盗聴器は、じつは父親から娘にプレゼントされたものだったと母親が言うのだ。
  まさかじつの父親が娘に仕掛けたとは考えにくいのだが、母親の話によると、最近彼氏ができた娘に対して、父親が異常なまでに神経質になっていたというから、もしかすると犯人が父親である可能性は高い。
  娘の気持ちを考えると、何とも後味の悪さが残るロケだった。

  現在、盗聴番組は下火である。

  それは、例えば外からマンションの中に盗聴器が仕掛けられているのが分かったとしても、最近はオートロックの建物が大半で、部屋の前までたどり着くのが難しい。
  仮に、住人のあとを付いて、中に侵入できたとしても、ひとり暮らしや共働きも多いため、不在であることも多い。
  では、夜ならば在宅しているだろうと訪ねていくと、不審者に間違えられてしまい、警察に通報されてしまうということも、しばしばあるからだ。

  また、電波を完全にキャッチするまでに、ある程度の時間がかかることから、決して効率の良い作業とは言い難く、制作費に余裕がない昨今は積極的に行われなくなってしまった。
  「あくまでも脱線しない!」
  それが今のテレビ制作現場の悲しい性なのかもしれない。

     本日の日直:ベテランディレクター(業界歴27年)

・「チーム・スパイス」とは…メディアで活躍している、ディレクター、放送作家、アシスタントプロデューサー、スタイリスト、ヘアメイクなど数名で構成されている、謎の酒好きテレビ業界人集団。西麻布、三軒茶屋界隈などで、夜な夜な業界話に花を咲かせている。

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