井上陽水の秋のコンサートツアーが開幕
編集部
陽水が凄腕ミュージシャンを従え、名曲の数々を歌う圧倒的なパフォーマンスと、聞いている側は思わず笑わずには入られない、独特の言い回しのMCが魅力を放つ。 ステージは、ダンサブルなラテンアレンジとなった『この頃、妙だ』で幕開け。
妖艶なサウンドに身を任せて踊りながら、時に耳元でささやくように、時に心の深淵に響くような甘い声で歌う陽水。
ヒット曲『Make-up Shadow』まで5曲を続けて演奏すると、冒頭から会場全体が呼吸をすることを忘れるほどの緊張感に包まれる。 そんな張り詰めた空気を一気に緩ませるのは、「大宮のみなさん、こんにちは」という陽水本人のあいさつ。 続けて、「何かと大変な世の中になっておりますが、みなさまいかがお過ごしでしょうか」と絶妙な言葉のチョイスと、陽水のあの声によって語られる婉曲な時候のあいさつに会場からは笑いがもれた。 その後はロマンチックなラブソング『移動電話』や『ワインレッドの心』をしっとりと歌い上げて観客を魅了すると、NHK「ブラタモリ」のテーマソング『女神』、『瞬き』や、今年に薬師丸ひろ子に書き下ろした『めぐり逢い』のセルフカバーなどの最新曲や、1970年代の名曲『帰れない二人』、『神無月にかこまれて』、大ヒット曲『リバーサイド ホテル』などを披露した。 この日の真骨頂は『最後のニュース』。
同曲は知己の仲であったジャーナリスト筑紫哲也氏の依頼によって、TBS「筑紫哲也NEWS23」のテーマソングとして1989年に書き下ろされた楽曲だが、当時、冷戦は終結に向かいながらも、湾岸戦争の開戦直前。
その当時の地域紛争、エネルギー問題、地球温暖化、食糧問題などについて、循環ループの中で淡々と歌われる同曲は、当時の社会情勢と相まって、強烈なインパクトとメッセージを残した。 ミュージシャン陣の鬼気迫る演奏をバックに、歌でもあり、朗読でもあるような陽水の紡ぎだす言葉が載ると、深く胸を抉られるほどにメッセージが突き刺さる。 会場はシリアスな空気に包まれるが、ここからまた一転、サルサアレンジで情熱的になった『氷の世界』から『結詞』とヒット曲が続き、アンコールではオーディエンス総立ちの中『アジアの純真』、『夢の中へ』で、エンターテイナーとして観客の期待に応えた。 そして最後は、玉置浩二との共作曲『夏の終りのハーモニー』で締めくくり、鳴り止まない万雷の拍手の中、コンサートツアー初日の幕は閉じた。 ・写真=有賀幹夫