芸能評論家・三杉武氏が「第9回AKB48選抜総選挙」を総括 時代を超えた王道アイドルの卒業と電撃結婚発表がAKB48グループにもたらすもの
編集部
それでも、選抜メンバーの顔触れがガラリと変わる可能性もあり、個人的には例年以上に注目度の高い「総選挙」だった。 悪天候により開票イベントが無観客で行われる波乱含みの幕開けの中、結果的には指原が圧倒的な強さを見せて3連覇を飾り、「AKB48」の渡辺麻友の卒業発表、20位にランクインした「NMB48」の須藤凜々花の電撃結婚発表など話題性のあるニュースも重なり、世間的にも大きな注目を集めるイベントとなった。 渡辺の卒業に関しては、ドラマなどでの女優業、音楽番組でのMCなど最近のソロ活動の充実ぶりを見ていると、「卒業が近いのかも」とは思っていたが、いざ本人の口からその2文字が発せられると、これまでの功績の大きさもあり感慨深いものがある。 インターネットの普及などによる情報過多社会において、芸能人はかつてほどのカリスマ性や神秘性、ファンタジー性を構築しづらくなった。 “スター”とよばれる存在がもはや絶滅危惧種となる中、そのアンチテーゼとして親近感を売りものにするタレントや読者モデルなどが活躍の場を広げた。 アイドルに関しても、かつてのような手の届かない憧れの対象ではなく、親近感が重要視されるようになり、“会いに行けるアイドル”をコンセプトに劇場で定期公演を行い、握手会やSNS、動画配信アプリを介してファンと近い距離感で交流するAKB48グループは、まさに現代のアイドルを象徴する存在となった。 常に進化を続け、時代の最先端をよくAKB48グループにおいて、だからこそ正統派アイドル路線の系譜を受け継ぎ、この時代にかつてのアイドルが放っていた神秘性や処女性を漂わせる渡辺の存在は極めて大きなものだった。
一例をあげれば、渡辺こそAKB48グループの“恋愛禁止のルール”に最も説得力を与える存在といっても過言ではないだろう。 3期生として「AKB48」に加入し、10年間以上にわたってAKB48グループの屋台骨を真っ直ぐに支え続けた稀代のアイドル。そのアイドル人生が、今年いっぱいで終焉を迎えてしまうのは残念でならないが、彼女のこれまでの功績や努力を考えれば、感謝の気持ちを胸に温かく送り出してあげたいとも思う。 そんな時代を超越した王道アイドルの卒業が決まった日、くしくも同じステージで、同じアイドルの口から発せられたのが、世間の物議を醸した電撃結婚発表だった。 AKB48グループの活動は、元プロレスラーのアントニオ猪木氏の言葉を借りるならまさに“一寸先はハプニング”の連続だ。
芸能界にありがちな演出や予定調和、“ヤラセ”をできるだけ廃し、メンバーの自主性を重んじ、リアルさを追求することで人気や注目を集めてきた。 常識的に考えれば、須藤の発言はあり得ない。
恋愛や結婚以前の問題として、「総選挙」の開票イベントのスピーチという場でのあの発言は“アイドル道にもとる行為”であり、肯定するつもりはない。 だがそれと同時に、小嶋陽菜の「いつか誰かがやると思っていた」という感想も興味深かった。
1期生として長年にわたってAKB48グループに携わり、数多のあり得ないハプニングを乗り越えて来た当事者ならではのリアルな発言であり、現代においてアイドルの置かれている状況はかくも過酷なものなのだろう。