73歳の“アニソン界の大王”を独占インタビュー!  日本のアニメブームの原点とは!? 【後編】

編集部
ささきいさお

  「宇宙戦艦ヤマト」や「銀河鉄道999」などアニメソング史に残る名曲の数々を歌い、73歳にして今年3月に開催したコンサートでは36曲を熱唱した歌手・ささきいさおを独占直撃! “アニソン界の大王”に日本のアニメブームや自身のキャリアについて赤裸々に語ってもらった――。

  数多くの人気アニメ作品や特撮ヒーロー作品の主題歌を担当し、アニソン歌手の第一人者として知られるささきだが、そのプロ歌手としてのキャリアは1960年のロカビリー歌手としてのデビューにさかのぼる。
  歌手活動を中断し、役者として映画やドラマ、舞台を中心に活躍する日々。
  ミュージカルへの出演をキッカケに改めて発声を学び直し、再び歌い手を目指す中で出合ったのが、70年代に人気を博したSFアニメ「科学忍者隊ガッチャマン」だった。

「当時、ガッチャマンの声優(※コンドルのジョー役)をやっていて。忘年会だか、新年会だかで、みんなで集まった時に『そう言えば、ささきさんは歌手だったんですよね。じつは新番組があるんだけど、歌ってみませんか?』と声を掛けられて…」

  このオファーをキッカケに1973年から放送されたSFアニメ「新造人間キャシャーン」のオープニングテーマ『たたかえ!キャシャーン』で、それまでの“佐々木功”から“ささきいさお”としてアニソン歌手としてデビューを果たす。

「その頃はアニメのテーマソングを歌うのはお世辞にも花形の仕事ではなく、どちらかというと“陰の存在”、そういうポジションだったんですよ。あくまでアニメや漫画がメインで、その主題歌という感じで。それでも、『やってみませんか?』と声を掛けて頂いて、自分でも良い機会だと思ったし、ちょうど自分の子供もアニメを観ていて、『お父さんは歌も歌えるんだよ』というのを見せてやろう、と。まあ、色んな思いがあって歌ったんですけどね」

  “陰の存在”と言いつつも、プロ意識の高いささきは真剣に取り組んだのは言うまでもない。

「発声をやっていると、声の出し方とか表現とかもだんだんと自分なりに分かってきて、積極的にやるようになりました。これは聞いた話ですけど、エルヴィス(・プレスリー)も最初は発声を習ったことがなくて、ちょうど軍隊に入った時、仲間にボーカルトレーナーがいて『教えてやるよ』と言われて教わったそうなんです。だから、後年は声の出方が違いますよね。エルビスの場合、元々素養はすごくあったんだろうけど、そういう意味でのちゃんとした声の出し方、とくに高音部に関しては、『カンツォーネ』とか軍隊から帰って来た後の方がすごいですよね」

  そんなささきにとって第二の転機となったのが、代表曲の一つとも言える『宇宙戦艦ヤマト』との遭遇だ。

「グアーッときたのは、『宇宙戦艦ヤマト』が当たってからですよね。もう仕事の忙しさが、まったく違いました。それ以前も、一部のアニメファンの方はよくイベントを観に来てくださったりしていたんですけど、最初に新宿の伊勢丹で『宇宙戦艦ヤマト』のイベントをやった時には500人くらいの方が来てくださって『ギャーッ!』となって、ビックリした思い出がありますね。三越でチャリティーサイン会をやった時も、『もう営業終了です!』とスタッフの方が説明した後も、たくさんの方が残ってくださって。あの頃はよくデパートの屋上でイベントをやっていましたね」

  今でこそ、アニメ界に残る不朽の名作として知られる「宇宙戦艦ヤマト」だが、じつは74年の最初の放送当時は平均視聴率6%(ビデオリサーチ調べ)と苦戦し、ブームを起こすまでには多少のブランクがあった。

「『宇宙戦艦ヤマト』はヒットするまでに2年半くらいかかったでしょ? 最初の放送の時は、途中で打ち切りになったりして。それでも、マニアの方の間ではすごく人気があったんですよね。それまでもアニメソングのファンの方はたくさんいらっしゃったんでしょうけど、なかなか“表”に出る人がいなくて、機会を伺っていたと思うんですよ。それで、僕なんかがステージに出るようになって、『宇宙戦艦ヤマト』の曲を歌うようになったら、たくさんの方が集まってくれて…。それが“第一次のアニメブーム”のキッカケだったんじゃないかな、と」

ささきいさお様3

  アニメや、特撮ヒーロー作品、アニソンが一つの文化として定着し、日本のみならず海外からも高い評価を受けるようになった昨今。
  ささきの歌も、世代や国境を越えて世界中の老若男女のファンから愛されているが、「うちなんかは4代目がいて。うちの女房のお母さんが僕のファンだったんですよ。それで女房がファンで、息子がファンで、今では孫が『ヤマト!』なんて言ってくれたりして。うれしい反面、不思議な気もしますね」と感慨深げに話す。

  さらに、こう続ける。

「僕らが(アニメの現場で)やっている頃、日本で放送している作品を海外にも売っていて、自然と海外でもファンの方が生まれたというか。もちろん、(アニメ放送の段階で独自に主題歌やテーマソングを)アレンジして流している国もありますけど、ファンの方は原曲も愛してくださって。作品の中でBGMとして流れていたりするじゃないですか? そこから昔のオリジナルの曲を探して聴いてくださったりして。僕らが歌っていた『UFOロボ グレンダイザー』とかはフランスや中東ではすごい人気だったらしいですしね。その頃は、僕らが海外に行くなんて考えられなかった時代ですけどね」

  いわば昨今の「クールジャパン」の先駆けともいえる現象ではあるが、「そういう意味では日本の文化を広げるパワーというのはすごいですよね」と目を細める。
  そこで、「ぜひ、世界中にファンを持つ日本を代表する歌手として『東京五輪』で歌ってほしい」と水を向けてみると、「ハハハッ、その頃には倒れているんじゃないかな」と茶目っ気たっぷりにジョーク飛ばす。
  そのうえで、“アニソン界の開拓者”は当時のアニメブームをこう分析する。

「“開拓”というより、僕が歌っていた頃は日本で一番アニメが盛んな時代だったんですよ。テレビのゴールデンタイムにアニメがたくさん放送していたじゃないですか? それも当時は録画機もないから“生放送”で観てくれていたわけですよ。子供たちは放送時にテレビの前で観て、それで翌日に学校に行って『ああだったな?』とか『こうだったよな?』とか。“熱”が違いましたよね。今は録画して一人で観てくださったりしていますけど、あの頃のアニメは家族みんなで、家庭で観てくださっていたという感じでしたからね。よく女性のファンの方が『子育ての時に観ていました!』と声を掛けてくださったり、そういう方がたくさんいらっしゃって。『宇宙戦艦ヤマト』なんかは、子供だけじゃなく、親も一緒に観てくださったアニメでしたからね」

  懐かしそうに当時を振り返るささきだが、その歌手としての情熱は今も色あせない。
  自身の転機となった『宇宙戦艦ヤマト』については、「昔の歌声を聴いてみると、若さにあふれているというか、ぶつけていくだけという感じで歌っていましたが、今は受け止めながらぶつけるところはぶつける、自分の中では深くなった気がします。“ヤマト”の歌い方は崩さないで、『君が代』を歌っているような気持ちで歌わないと、“ヤマト”に対して失礼だと思うんですよ」と同曲への思いを語る。

  そして、5月25日にはデビュー55周年記念シングル『今の向こうの今を』をリリースするが、「作詞を手掛けてくださった畑亜貴さんが僕のファンで、『いつか一緒にお仕事をしたいですね』という中で素晴らしい曲を作って頂いて。“今の先の今”を考えれば、過去のことなど笑い飛ばせるじゃないか。“今”のことをあまりくよくよとせずに頑張って生きていけば、いつか振り返ってみた時に『そんなことがあったよね』と笑って言えるような、そんな希望を持って生きようという歌です」と説明し、「この歳で新たな希望が持てるというはうれしいですよね」と優しい笑顔を浮かべる。

  「アニソン界の大王」は73歳、デビュー55周年を迎えた今もなお、類まれなるプロ意識とアニメ、アニソンへの愛を抱えながら“今の先の今”を力強い眼差しで見つめている。

・ささきいさお 本名:佐々木功 1942年5月16日生まれ、東京都出身。
  1960年に日本コロムビアよりロカビリー歌手としてデビュー。“和製プレスリー”のキャッチフレーズで人気を集める。 同時期に、大島渚監督の映画「太陽の墓場」で主役に抜擢され、俳優として数多くの映画、テレビ、舞台作品で活躍。 声優としても72年放送の人気アニメ「科学忍者隊ガッチャマン」にコンドルのジョー役で出演。この作品を機に、翌73年放送の人気アニメ「新造人間キャシャーン」で“ささきいさお”としてアニメソング歌手としてもデビューする。 以降、『宇宙戦争ヤマト』や『銀河鉄道999』、『ゲッターロボ』、『秘密戦隊ゴレンジャー』、『ザ★ウルトラマン』などアニメや特撮ヒーロー作品の主題歌、テーマソングを歌い、“アニメソング界の大王”として名をはせる。 声優としては、洋画吹替でもシルヴェスター・スタローン、クリストファー・リーヴ、人気テレビシリーズ「ナイトライダー」のデヴィッド・ハッセルホフなどの当たり役を持つ。 昨年にデビュー55周年を迎えて、今年5月25日にデビュー55周年記念シングル『今の向うの今を』をリリースする。

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