ギョーカイ的ドラマレビュー その6

ツンデレキャラの川栄李奈がようやくデレた『健康で文化的な最低限度の生活』第7回

編集部

『健康で文化的な最低限度の生活』第7回は、いつもクールで笑顔を見せないケースワーカー栗橋千奈に焦点を当てたストーリーだった。主人公の義経えみる(吉岡里帆)と違い、最初から福祉職として採用された栗橋は、仕事に対してもとにかく勉強家で隙がないが、どこか冷たさも感じさせる。学習支援のボランティアをしているが、そこの生徒にも「もうちょっと優しく教えてくれたらいいのに」と言われてしまう。

 栗橋を演じる川栄李奈は、AKB48に所属していたころは総選挙の順位もパッとせず、おバカなキャラとしてふるまっていたが、女優としては自然な演技に定評が出て、脇役としてさまざまなドラマに出演。AKB卒業組1番の出世頭とも言われている。

 その栗橋が担当する生活保護の利用者が中林吉徳(池田鉄洋)。栗橋が就職活動をするようにいっても、活動している気配がなく、栗橋は、このままだと生活保護の停止もありうる、という書類を作成する。その書類を渡し、読んでください、というが、中林はちゃんと返事をしない。

 後日、中林が区役所を訪れると、栗橋がいなかったため、えみるが対応。栗橋とは対照的ににこやかに対応したえみるは、栗橋が気づかなかったある事実を知る。中林は、識字障害で字の読み書きができなかったのだ。

 識字障害は、ディスレクシアとも言われる学習障害の一種。トム・クルーズやスティーブン・スピルバーグもこのディスレクシアだと告白していることは、今回の話でえみるが言っているとおりだ。今回のストーリーの軸となる中林は、識字障害のためにこれまでつらい人生を送っていた。これまでは就職活動のときなどは、同居する姉に書類の読み書きをしてもらっていたが、姉が亡くなったのでそれもできなくなってしまったとのこと。

 中林の識字障害に気づかないまま、就労意欲が足りないとして生活保護を停止しそうになっていたことを、上司から叱責される栗橋。しかし、持ち前のガリ勉で識字障害について猛勉強。中林と一緒に識字障害の診断を受けに行ったり、ハローワークに行くが、煮え切らない対応をする職員を怒鳴りつけてしまう。

 ここで栗橋がハローワークの職員に、「一般企業は全社員のうち2.2%の障害者を雇用しなければならない義務があるんです」と詰め寄る。が、この障害者雇用率について、これを推進する立場である中央省庁が、障害者手帳を持っていない人を障害者として算入するなどして、雇用率を水増ししていたことが、いま大問題になっているのは報道の通りである。

 そして、栗橋が「識字障害で障害者手帳を取れば、障害者として就職できる」と中林に矢継ぎ早に説明していると、中林に「障害者障害者ってやめてくれよ! あんたが一番わかってないよ。俺の気持ち」と言われてしまう。

 ここには、行政や福祉の支援の根本的な問題が織り込まれているように思う。えてして支援者は対象者を「障害者」の枠に当てはめることで支援の態勢に組み入れようとするが、対象者はその枠組を決して快くは思わない。そこでは、当事者の気持ちが置き去りにされてはいないか──、ということをこのやり取りはうまく象徴している。

 結局ハローワークでのことが伝わったことで、栗橋はさらに上司に叱責され、中林の担当を外されてしまう。落ち込んでいる栗橋を慰めたのは、かつて栗橋に慰められたえみるだった。

 今回、えみるの出番は少ないのだが、いつもおろおろしているえみるが、栗橋とは対照的に、利用者と気持ちを通じ合わせることのできる、いいケースワーカーだというポジションに、いつの間にかなっている。

 それでも、最後は中林と会った栗橋が、「これからの人生しっかりと生きなきゃ」と叱咤することで、中林は「姉以外に俺のために怒ってくれる人にはもう出会えないと思っていたから嬉しいです」と喜ばれる。

 中林は一緒に栗橋と本屋に行って、文字の読み書きの練習用の本を買い、栗橋がボランティアをしている学習支援教室でも勉強しはじめる。最後に、就職も決まった中林から届いた、つたないが一生懸命に書いたハガキを見て、笑う栗橋。いつも笑わない栗橋の笑顔に同僚たちが盛り上がると、栗橋は「笑ってません」と言いながらさらに笑顔を見せるのだが、これが可愛かった。ツンデレキャラの栗橋がようやくデレてめでたしめでたし。この可愛らしい笑顔をこれからも時々見せてほしい。

里中高志(さとなか・たかし)
「サイゾー」「新潮45」などでメンタルヘルスや宗教から、マンガ、芸能まで幅広く書き散らかす。一時期マスコミから離れて、精神に障害のある人が通う地域活動支援センターで働くかたわら、精神保健福祉士の資格を取得。著書に、「精神障害者枠で働く」(中央法規出版)がある。

ツンデレキャラの川栄李奈がようやくデレた『健康で文化的な最低限度の生活』第7回のページです。エンタMEGAは、連載コラムの最新ニュースをいち早くお届けします。芸能ニュースの真相に迫るならエンタMEGAへ!