ギョーカイ的ドラマレビュー その5

吉岡里帆が苦悩する「親子の絆」……『健康で文化的な最低限度の生活』第5回レビュー

編集部

 親子だからわかり合える。親子だから助け合うのが当然。そのように信じている人は確かに多いが、それは決して当たり前ではない。「健康で文化的な最低限度の生活」第5回は、扶養照会という生活保護の制度を通じて、親子の関係について問いかけるストーリーだった。

 義経えみる(吉岡里帆)が勤める港区の生活課に、生活保護を受けたいといって訪れたひとりの青年・島岡光(佐野岳)。耳にはイヤホンをしてクラシック音楽を聴き、偶然人と手が触れると極端に嫌がる。どうも様子のおかしい青年だ。所持金はほとんどなく、公園やネットカフェで寝泊まりしている。うつ病なので仕事はできないという。なお、演じる佐野岳は、『仮面ライダー鎧武』で主演を務めた俳優である。

 生活保護の申請にあたっては「扶養照会」という制度がある。生活保護の制度は、先に活用できるあらゆる資産を使ってからでなければ受給できないのが原則だ。その考えに基づいて、役所は生活保護を申請する人の親族に、「この人を扶養する意志がありますか」ということを書面で問い合わせなければならないのだ。

 島岡青年の母親は亡くなっているのだが、父親はいる様子。それならば父親に扶養照会をしなければならないのだが、島岡は父親の連絡先を教えることを頑なに拒む。「連絡取るとか、無理です。ありえないんで」の一点張り。なぜ教えられないかの理由も言おうとしない。

 ところが、戸籍をもとに島岡の父親を調べると、医師であることがわかる。連絡を取るのは絶対にやめてほしいというのが島岡青年の意向だが、役所としては確かめないわけにいかない。島岡の父に書類を送ったところ、父本人が役所を訪れ、「生活保護なんてとんでもない。息子の面倒は私が見ます」という。

 えみるが島岡が入居した施設に電話をかけ、これから父親と訪れることを告げると、島岡は恐慌をきたした様子で電話を切る。施設を飛び出した島岡は、駅のホームで電車に向かって飛び出し──、というのが今回のストーリーだった。果たしてこの親子の間に過去何があったのか?

 今回は、ほかにも2組の親子の話が登場した。えみるの同期、桃浜都(水上京香)が担当する水原という女性には、音信不通の息子がいる。都が息子の居場所をつきとめ、「これで親子の縁が復活してくれるかも」と期待を込めて扶養照会の書類を送ると、返ってきたんのは、ぐしゃぐしゃにした上に、「援助はできません」と大きく書き込まれた書類だった。

 もう一組は、第一回から登場している元生活保護受給者の阿久沢(遠藤憲一)の娘。長年の音信不通を経て突然表れた娘は、妙なハイテンションで、父親の部屋の冷蔵庫を勝手に開けて、ビールを飲んだと思うとそのまま寝てしまうようなキャラクター。阿久沢の娘が登場するという展開は、断絶した親子の話ばかりだとドラマのトーンが暗くなってしまうので、差し挟まれたものか。

 それにしても、このドラマに登場する生活保護受給者の部屋が、全体的に綺麗に整頓されすぎていると思うのは私だけだろうか? 別に部屋を整頓している生活保護受給者がいないとは言わないが、多くの場合、貧困状態にあると部屋を綺麗にする気力もなくなりがちなものである。原作では、受給者の部屋のちらかりぐらいの描写がいかにもありそうで、リアリティをかもしだしていたのだが……。

 今回のえみるは、はっきり返事をしない島岡にイライラし、父親と連絡を取ることについて「とにかく決まりですから」と、お役所的な対応をしてしまった。親子の断絶の理由が明らかになる次回では、どのような対応を見せてくれるだろうか。原作によるとかなり重い展開が待っているので、ドラマではどんなふうに表現するかチェックしたい。

里中高志(さとなか・たかし)
「サイゾー」「新潮45」などでメンタルヘルスや宗教から、マンガ、芸能まで幅広く書き散らかす。一時期マスコミから離れて、精神に障害のある人が通う地域活動支援センターで働くかたわら、精神保健福祉士の資格を取得。著書に、「精神障害者枠で働く」(中央法規出版)がある。

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